中学生から高校生くらいだろうか、俺は縮れ毛・くせ毛に悩んでいた。本当に悩んでいた。さらさらヘアーのほうが清潔感があるしかっこいい、猫っ毛なんてうらやましくて仕方なかった。当時の俺は、僻みのかたまり、歩く妬みみたいなやつだった。そんな俺が、縮毛矯正で人生を変えた話をしたいと思う。
なぜ髪が縮れ毛・くせ毛になるのか?
髪質や天然パーマは、遺伝らしい。縮れ毛やくせ毛は、遺伝するというわけだ。俺の両親は髪の毛は太いが直毛だった。少しはくせがあるかな。
俺は小学生のころは特に縮れ毛でもなく、くせ毛でもなかった。ただ、髪の量は多く、太く、伸ばすと横にふくらんで、キノコみたいな髪型になる。それもすごく嫌だった。このへんは、親の遺伝なんだろう。
中学生になると、髪を短くした。するとどうだろう、縮毛とくせ毛があらわれた。たぶん小学生のころは髪が長かった分、重さでまっすぐに見えていたのだろう。短くしたとたんに髪の毛が暴れだした。
気分は最悪だ。髪の毛のセットなんて不可能。チリチリの髪の毛で、スチールウールみたいだと同級生にバカにされる。なんで、こんな髪になるんだろう……。縮毛は個性だと思うし、多様性が求められる時代にこんなこと言うと問題になりそうだが、自分でも気持ち悪いと思っていた。
なぜ髪の毛が縮れるのか? 当時いろいろと調べた俺は、原因が髪の毛穴が曲がっていることが原因だということを何かの本で読んだ。そりゃどうしようもない問題だ。毛穴の向きばかりは、中学生には直しようがねぇよ……。
毎日ブラッシングしたり、髪がさらさらになるリンスをつかったり、いろいろと頑張ったがダメだ。まっすぐになることはない。うねうねチリチリしていて、さらさらヘアーの同級生が彼女をつくったりしているのを横目にしたりして、日々つらかった。
縮毛の悩みは女子のほうが深刻? 「縮毛矯正」という名のデビュー
思春期に縮毛に悩むのは、男子だけじゃない。いや、女子のほうがより深刻だろう。本当におもしろい現象なのだが、縮れ毛だった女子が縮毛矯正をかけてスパン!と直毛になった途端、男子にモテはじめるのだ。
それを見て、縮毛矯正は中学生のデビューの手段のひとつだと確信した。たしかに、縮毛だった女子が直毛になると、めちゃくちゃかわいく見えた。ってか、なんで縮毛だとダメなんだろう。人間の本能的なものなんだろうか。日本人の感性なんだろうか。
俺も、縮毛矯正をかけるともしかして……と思い始めた。しかしデビューには勇気が必要。それが思春期ともなると、より大きな勇気が必要になる。周囲から見ても、縮毛矯正は「見た目をよくしたい」「モテたい」という気持ちのあらわれとしか捉えられない。
「手入れが面倒だから~」なんて建前の理由をつけた日には、もう笑いものだ。俺は、そうして冷やかされることに耐える根性がなかった。そして、自信が持てないままに中学時代が終わった。もちろん彼女なんてできるわけもなく。
ついに縮毛矯正をかける!
高校生になり、まだ俺は縮毛に悩まされていた。前髪もさっぱりキマらないので、アップスタイルにしていた。アップスタイルにしたらしたで、変なくせと縮毛でもっこりして、小さめのリーゼントみたいになる。ぜんぜん、かっこよくない……。
アップスタイルなので、おでこが見えてしまう。高校生の額なんて、脂ぎってるし、俺はニキビができやすかったのですごく汚かった。こんなのでモテるはずがない。女子にモテることにより敏感になった同級生たちも、モテないやつとつるみたいなんて思うわけがない。友だちも全然できなかった。
自己肯定感が低すぎると思われるかもしれんが、思春期にこじらせてるやつなんてこんなもんだ。周りを見ると、ちらほらそういうやつがいる。でも、そいつらはそいつらなりに趣味があって、同じような雰囲気のやつと意気投合したりして楽しそうだったりする。俺は、見栄っ張りだからそういうのに加わらないようにしてると、さらに居場所がなくなった。
もう、縮毛矯正をかけよう。どうなってもいい。俺は地元の美容院で1万円弱で縮毛矯正をかけることにした。高校生にとっては大金だ。経験を買ったつもりで奮発だ。
美容師の方が言ってたのは、縮毛矯正ってのはデコボコしている縮毛をつぶしてまっすぐにすることらしい。けっこう強引だな。今もそうなのかな、ってかそれってすごい髪が傷んだりしないのか?
ゆっくり時間をかけて、髪を少量ずつ引っ張られる。痛い。妙な痛みだ。なんか気持ち悪くなってきたのを覚えてる。
髪がどんどんまっすぐになってくる……。こわい、もう引き返せない。変わることはこわいのだ。やばい、縮毛って引っ張って伸ばされるとけっこうな長さなんだな。ギャル男みたいになってきたぞ。もちろん、カットも合わせてやったので、校則にかからないくらいのミディアムショート?くらいにしてもらったけど。
施術が終わった。前髪がある……。髪のツヤがすごい……。そして、気持ち悪いくらいさらさらだ! どうしよう! 親に見せるのですら正直こわい。
家に帰る。母親が俺の髪を見て一瞬凍りついた。そして口から出た言葉は
「あんた! 髪サラサラなってるじゃない! すごくいいわ!」
生来の髪質を捨て去った息子に幻滅するかと思いきや、意外に高評価だった。そう、親だって清潔感のある息子であってほしいのだ。親だからといって、息子に変わってほしくないと思っているわけではないのだ。別に、金髪にしたりピアスを空けたり、非行に走るわけじゃないんだから。
だからもし、このブログを読んでいる君が、親の目を気にして縮毛矯正することをためらっているなら、そんな心配は無用だと伝えたい。清潔感を上げる路線の変化を、親は嘆いたりしないから。きっと喜んでくれるから。
次の章では、いよいよ登校だ……!