前のページからの続きです。
小川哲(おがわさとし)ってどんな作家?
小川哲のプロフィールを読むと、小川哲はジャンルとしてはSF小説を書く作家のようだ。『地図と拳』だけを読んだ人は、彼をSF作家ではなく時代小説作家だと思うんじゃないかな。俺も『地図と拳』以外の作品を読んだことがないから、改めて経歴を調べるまでSFとは無縁の人だと思っていた。
出身と学歴はWikipediaによると、千葉大学教育学部附属小学校、千葉大学教育学部附属中学校、渋谷教育学園幕張高等学校から東京大学理科一類を経て東京大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退、とのこと。
もともと理系で、学部時代にいわゆる文転したようだ。インタビューを読むと、当人がもともと理系だったことについて質問されているのをしばしば見かける。
俺、思うんだけど、理系の人たちは何考えているかわからんみたいなバイアスってどこかで働いてない? 「理系の方ですよね?」みたいな質問って、文系の人間が理系の人たちの頭を理解するためにされてるのかな。なんか文系の人は理系の人にコンプレックスを抱いていて「恐れ多くも……」みたいな姿勢も感じる。
俺も無意識に理系の人にコンプレックスを感じているのかな? 俺は文系だけれども入試には理系科目もあったから、理系への免疫ゼロってわけじゃないと思うけど……それでもやっぱ理系の世界には入れん、みたいなところはなくもない。
思考回路が丸ごとちがうみたいに思ってんのかな。こういうの、とっぱらいたいよね。もちろん小川さんは何にも悪くないし、全然関係ない話に脱線してしまいました。申し訳ありません。
見かけたのは、学生時代に岩波文庫を一日一冊読んでいたという話。なにそれ楽しそう!
っていうかすまん、参照したこの記事で小川さんの人となりがすっごくよくわかるので、ぜひ読んでほしい。俺から語れることは、この記事に比べるとカスみたいなもんだから……。
作家の読書道 第244回:小川哲さん|作家の読書道|WEB本の雑誌
いい記事だな……。いつの間にか俺、小川さんって呼んでるし。この記事を読んでそれくらい親しみを覚えたわ。
ちなみに、俺が作品から感じた印象は、知識量でガンガンぶん殴ってくる作家って感じ。でも全然いやな感じがしない。ひけらかさないけど、しっかり取材して書いてるのが伝わる。この点は気持ちよささえあるし、書いていて楽しいんだろうなってのもわかる気がする。『地図と拳』を読んだら、ほかの小川哲さんの作品を、もっと読みたい!って思うはずです。だって、引き出しめっちゃすごそう。
『地図と拳』の評価は?
読書メーターで評価を見てみると「大作」「よみごたえがすごい」「難しかった」「学術書?」「感情移入できない」みたいなコメントが多いかな? サクッと読めるような本ではないのはページ数(640ページ)から伝わると思うけど、内容が難しいとか学術書とか言われると、少し気が引けるよな。
ちなみに、直木賞の選評はこちらでご覧いただけます。これって誰かが有志でやってんのかな? おもしろいですよね。ってか審査員たちがすげー作家のあつまりだから、コメントの言葉選びが気持ちよすぎてこれ読んでるだけで楽しい。
俺個人の評価としては、もちろんおすすめです。一番大きな理由はね……浅薄だけど賢くなれた気がして、読みたいと思える本を増やしてくれたから。電子書籍で読んだんだけど、このフォーマットがよかった気がする。KINDLEって辞書機能がついているでしょう? がしがし辞書を引きながら読んだんだけど、それが楽しかった。読書の楽しみのひとつ、学びの好奇心を満たしてくれる作品である。
無論、エンタメとしてばっちり感動もできる。細川の野望や明男との賭け、中川が見た世界そして戦場での心理変化、地図に青龍島を描いた人物の謎。波乱の世にインテリがどう介入していくか、という視点も持てる。その舞台が満州。土の匂いが漂ってきそうな描写。没入感の高さも◎。
ちなみに『地図と拳』を読む前、読んだ後、どちらでもいいので、同じく直木賞を獲得した東山彰良の『流』を読むと楽しめると思う。
『地図と拳』と比較するとだいぶポップで物語のスケールや主人公の視点は違うけれど、続く時代の話(祖父の話は少し重複している時期もある)でもあり、中華圏の政治的関係のムードを別の角度から感じ取れるんじゃなかろうか。